今回は、大腸憩室症ガイドライン委員メンバー(日本消化管学会編2017年12月第一版作成)の僕が大腸憩室について、わかりやすく説明します。このガイドラインは全62ページにも及ぶ作成メンバーの努力と叡智の結集した話題の大作。日本で初の大腸憩室症の診療ガイドラインです。一般の方も無料で入手でき、読むことができますが、医師向けの専門的で難解な内容も含みますので、読まなくてよいです。あなたの主治医が、説明してくれることでしょう。
大腸憩室症とは、大腸カメラ(大腸内視鏡)を施行したときに、がんやポリープ、炎症所見などよりも最も多く大腸に認められる良性の疾患です。食生活などのライフスタイルの欧米化などや、繰り返す便秘などによって大腸の壁に圧力がかかり、袋(へこみ)ができる病態です(少し、医師向けに難解に説明すると、後天的に増えてくる憩室は固有筋層を欠いた仮性憩室が多いです(医師国家試験にでましたね))。大腸憩室自体は良性の疾患であり、治療はとくに必要ありません。しかしながら、腹痛や発熱などを伴う憩室炎や下血、血便、貧血をきたす憩室出血を引き起こすと、治療が必要になります。
多数存在しているへこみが大腸憩室です。
この写真は大腸カメラ(大腸内視鏡)からS状結腸の中に造影剤を流しています(透視画像といいます)。さきほどの内視鏡写真のへこみが、ポコポコと袋状に描出されています。このような状態でも症状がなければ、特に治療は不要です。
日本人では大腸憩室は右側結腸(盲腸、上行結腸)に多く、年齢とともに左側結腸(S状結腸)の割合が増加してきます。これに対して欧米では圧倒的にS状結腸に多いです。もともと右側に多かった憩室ですが、食生活の欧米化などからS状結腸の憩室が特に増加しているのです。
困ったことに、憩室出血と憩室炎も近年増加傾向にあります。
大腸憩室の累積出血率(憩室を保有する患者さんが憩室出血を起こす確率)は0.2%/年、2%/5 年、10%/10 年とされています。(これに対して大腸憩室炎は大腸憩室出血よりも約3倍も多いです。)
憩室出血は肥満体形の高齢の男性に多い傾向があり、とくにロキソニン(NSAIDs:エヌセイズ)などの痛み止めの薬や、アスピリン内服薬の方に多いです。さらに憩室出血を呈して病院に受診した方のうち、1%が死亡のリスクがあることがわかっています。近年、脳梗塞や心疾患のために血をサラサラにする薬(抗血栓薬、抗凝固薬)の服用者の割合も増えていることも十分に、リスク因子として注意しなければなりません。
原因薬剤の中止や、絶食、輸液で出血は自然止血することが圧倒的に多いですが、大腸カメラ(大腸内視鏡)を施行して内視鏡的に止血術(内視鏡クリッピングなど)を施行することもあります。内視鏡止血による治療が困難でコイル塞栓術や外科手術となるケースはまれです。しかしながら大腸憩室増加の背景があることから今後、手術という選択肢が増えてくる可能性もあります。
少し長くなりました。項を分けて、次回は大腸憩室炎についてご説明します。
用賀・桜新町の『せたがや内科・消化器クリニック』は大腸がん、大腸憩室などの病気の発見のために、大腸カメラ(大腸内視鏡)を積極的に施行します。