今回は腹痛の疾患の原因となる虫垂炎について解説します。
虫垂炎は、急性腹症の代表的な原因の一つで、盲腸に続く小さな管状の器官である虫垂が炎症を起こす疾患です。
急性腹症(急激におなかが痛くなる病気)の鑑別として、消化器専門医ならば、まずは念頭に置かなければならない代表的な疾患です。
地域医療を担う開業医がしっかり診断できるかどうか、その真価を問われる疾患である、と肝に銘じて日々診療しています!
(当院では週に1人~2人が受診され、このうち月に2人は緊急手術の適応として病院へ紹介受診としています)
虫垂の正常径はばらつきがあり、個人差はありますが、イメージとして、だいたい成人女性の小指程度の大きさです。虫垂炎となるとそれが腫大し、成人男性の親指くらいに腫大します(手術摘出時の私の印象です)。
一般的には「盲腸炎、または盲腸(モウチョウ)」とも呼ばれることがありますが、正確には「虫垂炎」が適切な表現です。
患者さんにわかりやすく説明するため、時にわたしも「モウチョウ」とあえて呼称することもありますが、
盲腸とは大腸の臓器の一部で、小腸(回腸)の終わりと大腸の始まりが接続する部分に位置しますので、盲腸=虫垂炎ではありません。
主な原因としては虫垂の閉塞と細菌感染が挙げられ、閉塞の原因としては糞石(糞便の塊)、異物、リンパ組織の腫脹、腫瘍などが考えられます。
閉塞が起こると、虫垂内部で細菌が増殖し、炎症が進行し、痛みなどの症状が出現します。
初期段階の症状ではしばしばおへその周りの痛みや鈍痛(持続痛)から始まり、次第に右下腹部へと移動することが特徴です。
私は下痢症状がなく、最初は心窩部痛だった症状が、右下腹部に移動しかつ持続する(周期痛ではない)ことが主訴の場合、積極的に虫垂炎を疑うようにしています。
この痛みに加え、発熱、吐き気、嘔吐、食欲不振といった症状がみられますが、このような症状がない非典型的例もよく経験し、特に糖尿病の方や高齢者の方は症状が多彩な傾向にあり、典型的な所見や経過に乏しい場合も多々あるので、確定診断に難渋することもあります。
早期に診断がつき、治療に結びつけることができると、快方に向かうわけなのですが、
診断がつかず、炎症が悪化していくと、虫垂が破裂し腹腔内に膿が広がり、腹膜炎を引き起こすリスクが高まります。
腹膜炎をおこした場合、症状はさらに激しくなり、発熱が上昇し、全身状態が悪化し、長期の入院となってしまうため、虫垂炎は早期診断と早期治療が非常に重要です。
診断には、身体所見による触診、血液検査(白血球の上昇など)、画像診断(超音波検査やCT)が主に用いられます。特にCTがすぐに施行できないクリニック、開業医では、その場で、すぐに施行でき、かつ確定診断に結びつくことができる腹部超音波(腹部エコー)が非常に有用となります。
診断が確定した場合、標準的な治療は虫垂の外科的切除である虫垂切除術が行われます。
手術は一般的に腹腔鏡手術で行われ、早期診断の場合は、術後の回復も早いです。
もちろん軽症の場合は、抗菌薬による保存的治療(俗にいう「ちらす」)もよく試みられます。
しかしながら、腹膜炎のリスクがある場合や、複数回繰り返す、明らかな糞石がある場合は根治を目指すために手術が推奨されます(ここの手術適応をしっかり判断することができるようになるには、経験と熟練が必要)。
適切な治療が早期に行われれば予後は良好ですが、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、下痢のない、右下腹部に移動する腹痛が現れた場合には早めに医療機関を受診することが勧められます!
写真は腹部エコーの画像で、腫大した虫垂です。
この方は臍周囲から右下腹部に移動する腹痛にて当院を受診されました(下痢なし、持続痛)。
触診、腹部エコーから虫垂炎で手術が必要と判断し、その日のうちに虎の門病院で緊急で腹腔鏡手術を施行していただき、その3日後に無事退院されたケースです。